暗いです。

暗い上に長いです。

世間がクリスマスで賑やかになってる頃、私が小学校低学年の時から一緒に暮らしている愛犬が亡くなりました。

最期は病院でした。

お医者さんとの電話の会話をこっそり廊下で聞いていたのだけれど、電話を切った後、たぶんお母さんに向かって言ったお父さんの「死んだてえ・・・」という声が悲痛で忘れられない。一瞬言葉が理解できなかった。でもすぐに理解した。死んだ。そうかあの子は死んだのか。

苦しい。こんなに苦しいことが世の中にあるのかと思うくらい苦しい。

家族が死ぬことはとても辛いだろうけれど、でも人目もはばからずに泣くことなんてないと思ってた私は馬鹿だった。経験したことないだけだった。もう家だろうが病院だろうが火葬場だろうが構わず泣いた。こんなに泣いたことない。顔中が痛くなった。家族の前で泣くのも久しぶりだった。でもちょっと時が経ってしまったからもう人のいるところでは泣けない。ただでさえ、ずっと泣いてて怒られて、ごはん食べなくて怒られて。悲惨な数日。迷惑かけてるな、イライラしてるんだろうな。怒られた時に日頃の不満まで混ぜられて余計苦しくなった。そんな風に思ってたんですか。今も思ってるんですか。

「悲しいのはあんただけじゃない」って言われたけど、それはわかるけど、でも一番辛いのは私だ。断言できる。誰にも話せないようなことを聞いてもらってたし、不安なことやちょっとした悩みやどうでもいいことも聞いてもらった。私には友達もいないし、そういうのを話せる人もいないから。あの子しかいなかったってそんな気持ち。私にはあの子しかいなかった。

もっと早く病院に連れて行ってたら元気になってくれたかもしれない。いつから辛かったの?とか、ずっと頭が痛かったの?とか、歩くのもだるかったの?とか。何も気づけなかった。殺してほしい。私が全部変わってあげたい。

知らない人しかいない、知らない場所で死んでしまった。最期に何を見たんだろう。誰の声を聞いたんだろう。

迎えに行った時はまだほんのり温かくて、死んでるなんて嘘みたい。でもやっぱり、冷たくなっちゃったし、かたくなっちゃったし。よくのびたほっぺももうのばせないし、鼻を触られるのは嫌いだったのに、触ってても嫌がらないし。本当に今にも動き出しそうだったのに。じっと見てると動いてるんじゃないかって錯覚してしまって。そんなことあるわけないのに。

本当は死ぬとは思ってなかった。前、病院に連れて行った時も元気になって帰ってきてくれたから。こんなに一緒にいたのに、体調悪いの気づいてあげられなくて。ちょっと咳してるなとは思ってたのに。言葉、話せないんだから気付いてあげなきゃいけないのに。あの時の私を殺しに行きたい。

火葬の時はぬいぐるみを一緒に入れてあげた。うちひとつは私の部屋にずっとあったぬいぐるみを。部屋にもう一個色違いがあるからお揃い。

可愛かった。ずっと可愛かった。ちょっとひどいけど採血されてる時に不安そうにこっちを見てくる姿も可愛かった。火葬が終わった後も。「ここがしっぽです」って、可愛いな。骨になっても可愛い犬だな。

うちにはもう一匹犬がいるから、水を用意する時についつい二匹分用意して、ああ、お前だけだったねって少し戸惑った。この子は小学校高学年の時に来た犬だけれど、老犬には違いない。

私はなあ、たぶん周りの人が見てもわかるくらい死んでしまった犬の方ばかり構ってたからなあ。後から来た犬とはあんまり仲良しって感じではないと思う。みんなが急に今まで以上に構いだしたから、それを見てるのが辛い。申し訳ないけど私は切り替えられそうにない。

朝までいたのに、昨日までいたのに、一昨日まで、先週までってなって今年が終われば先月まで一緒にいたのにってなる。過ぎてく。今こんなに辛いけど、今のこの辛さや苦しさをたぶん私は忘れる。いたことは忘れないけど、部屋に飾ってある写真を見ても今ほど悲しくならない日が来る。本当はそんな日が来るのが怖い。ずっと辛いままでいい。でも慣れるんだろうな。きっといないのが普通になっちゃうんだろうなって。

寂しいなあ寂しいなあ、もう一度会いたいなあ。もう一度抱きしめたいなあ。でももう二度と会えないんだね。もうどこにもいないんだね。もう頭をなでることも、抱きしめることもできないんだね。もっと先のことだと思ってたよ。

生まれたばかりの頃、どんな家族が近くにいたんだろう。お父さんとお母さんはどんな顔をしてたんだろう。兄弟は何匹いるんだろう。顔を見ながらそういうのを考えるのが好きだった。意味もなく名前を何回も連続で呼ぶのが好きだった。これはずっと前からで、本人にも写真にもひとりの時でも呼んでしまう。今はもう本人がいないから、つい言ってしまうとまた悲しくなる。

家族以外にはよく吠えた(賢い子ではなかったのです)。雷が怖くて夏でも震えてた。今の時期、冬毛がすごいわさわさしてて「でも夏にはさらさらになるもんねー」って話しかけてたんだけどな。ペットショップやテレビ番組で可愛い動物を「可愛いね」って見た後で私が「でもあの子の方が可愛いよ」って言って、お母さんが「言うと思った」って言うあの会話ももうできないなあ。

実は会いにきてくれるかも、とか、連れてってくれるかも、とか、少し本気で考えてたけど、まったくどこにも現れない。

うちの中からあの子のいた痕跡が消えていくのが悲しい。

世界が終わればいいのに。