私が人間なら、涙を流すのに。

人生の中で危機なんてそういくつもあるものではないだろう。入学以来、私はずっと危機の中にいると思っていたけれど、今がわりと本当の危機ではないかのか。何故実家の郵便物に法律事務所からの封筒が混ざっているのか。近い親戚に癌疑いがあって、手術になるとかそうではないとか。さらに、ふくよかだった彼女がとても痩せたとか。母親の体調不良による離職、いや失業だとか。それを父親に報告できずにいる彼女の心境とか。

私はもういい大人だ。そこそこ生きてきた。けれども何にも巻き込まれたくないと思ってしまっている。なんせ私は私の悲しみや不安で精一杯だ。他人の悲しみや不安を引き受けられるまでにはまだ大人ではない。だから誰に対しても「どうしたの」「何があったの」という一言すらかけられずにいる。

家族や親戚とも距離を置きたい私は他人とはもっと距離を置きたがる。現在遅めの学生生活を送っていても、私の中に友人とよべる人はいなくて、たわいのないやり取りをする人はいない。必ず業務連絡だとわかる携帯の通知音が鳴ると恐怖すら覚える。なんせ学校関係の連絡に決まっているのだから。


何もしない私が悪いし、何もしなかった私が悪いし、だからいつも取り残されたような気分になるのは、自ら取り残されるのを選んでるんだろう。でもなんで世界に一人だ、孤独だなんて、とんでもないわがままだ。

戻りたくない。進みたくない。行きたくない。帰りたくない。時が止まってしまえばいいのに。

レンタルショップに行って観もしないDVDを借りて、1ページも読まなかった本を持って、1週間後には元来た道を戻らないといけない。物理的に片付けなければいけないことが山ほどあって、頭の中はなんにも片付かなくて。それでも体を動かさないと、頭の中は死んでても体まで死ぬわけにはいかないから。
名前のある人間を続けなければならない。

誰かに優しくされたいとか、優しくしたいとか。思ってたけど。そろそろ本気で自分一人と向き合わないと。